オールマイティではなく必要とする機能に特化したシステムを作る
現在では、専門ベンダーによって販売される「重厚長大型」の設備は必要とされなくなりつつあります。
それ故、PCベース(パソコンを活用して後工程に関わる大半の役務を遂行する)でのシステム作りがカギを握っています。
単にメーカー製PCやショップブランドPCを導入するだけでは「バランスの悪い」システムしか手に入りません。既に仕上げられたPCは、オールマイティな機能や性能を発揮することを目的としており、当方の案件をこなすには「必要の無い過剰スペックのパーツ」や「更にスペックアップすべきパーツ」があり、その適正を見極める必要があります。
B.T.O.を謳う業者の幅広いラインナップであってもまだまだ不足といわざるを得ず、本当に必要とするパーツを選択し組み上げるには、過去からの失敗や試行錯誤による体験が不可欠です。
コンシューマグラフィックボードではアプリケーションとの相性が障害になる
一例としてグラフィックボードを見てみますと、コンシューマ向けとはいえGPUの性能向上は著しく、ビデオ編集における編集時モニター出力の目的だけに限れば充分すぎるスペックだと考えられます。また、GPUの性能が向上するに従い種々エフェクトを適用した結果をリアルタイムプレビューしたり、レンダリング・エンコード時点でもGPUパワーを活かしCPUと協業させることで更に時間短縮が可能となってきました。
ところが、コンシューマ向けグラフィックボードには編集アプリケーションとの連携に相性があるケースも多く、望ましい結果が導き出せないケースを経験しています。
この課題を越えるためにエンタープライズレベルのグラフィックボード(Quadro K5200)を選択し、作業環境の向上を図っています。
更にはコンシューマ向けグラフィックボードは大量の電力を消費するモデルも多く、大量の熱を排出。対策として給排気に関わる多数のファン設置が必要となり且つ高速回転稼動が求められることとなります。
これらは、音楽演奏作品の編集、調整作業にはノイズ源となるために極力避けたい環境ですが、こうした部分でも作業を邪魔しない静音環境構築を第一に考えています。
Quiet Computing が求められる業務
ppp(ピアニシシモ)の音にこそ価値があるレコーディングの案件や、オーケストラビデオ編集における作業に支障をきたすことにならないよう(現実に、pppレベルの音声がPCファンにかき消されて認識できない=業務遂行不可、となるシチュエーションもあり得ます)
不要な高スペックパーツは排除(当該業務用PCにはファンレス仕様グラフィックボードを選択、エンコード専用機にのみエンタープライズスペックのグラフィックボードを使用。)、同時にケース筐体もノイズ排出を極力抑え込んだモデルの選択が必要となります。
CPU選択はコストパフォーマンスが判断基準
他方、CPUについては、フルHD映像編集とともに今や4Kデータも扱うために高い性能が求められます。現在ではヘキサコア、オクタコア、あるいはそれ以上の超ハイスペックCPUの選択が望ましいものの、この世界はモデル進化が極めて早く、同時に費用対コストの面で競争力に欠ける結果を招きます。もちろん、時短という観点では意味のあるところではあります。
上記の記事と同じで趣味の世界であれば費用対効果は無視することも可能でしょうが、ここは事業者としてのコストパフォーマンス判断が必要とされるところ。
そのためのCPUオーバークロック(自己責任範疇=当方では一切の責任を持ちません)も視野に入れた展開もあり得ます。
実際には、入念な検証と試行を行い、業務遂行レベルで問題が発生しないことを確認したうえでの稼動を行っています。冷却や排熱、上記静音性能を高い次元でバランスさせるには、多くの時間と失敗、相性問題の解決という経験なくしては実現しません。
但し、リスクと処理能力とのバランスを考慮できない限りは行うべきものではなく、当然ながら定格動作の機器も実稼動していますし、予備機としていつでも対応可能な環境も構築しています。
高負荷環境におけるリスクヘッジ判断と環境整備
高負荷によるライフサイズの短縮という観点からは、定期的なメンテと入れ替え、パーツごとのリプレイスも視野に入れた判断と運用が必要です。HDDのクラッシュも一定割合で発生しうるという事実があり、そのためのデータ二重化、三重化は避けて通れません。
同時に、ハードに実装される新テクノロジーに対する理解が不可欠であると考えています。
更には、作業ルームにおける電源供給についても配慮が必要とされます。
Audio系とPC系は別ラインにすることはもちろん、ノイズ対策としてのアースの知識も不可欠です。
PCにおけるATX規格電源については、変換効率の観点で現時点での最高基準である80 Plus GOLD(またはplatinum)認証の機器を基本とし、全てのシステムで採用しています。
PCシステム構築と運用スキルが求められる時代に
PCベースでの業務遂行は時代の流れであり、クラウドデータと密接に絡んでゆくため今後更に加速するものと考えられます。
放送局のダウンサイジング的なシステム構築能力と財力を前面に打ち出すのではなく、PCベースにおける業務遂行能力と費用対効果に言及した事業判断がこれからの事業者には不可欠と考えます。
単なるパソコンではなく、全ての業務遂行のベースとなるシステムとして重要な位置づけであるからこそ、その選択、システム構築と運用にはスキルが求められます。
こうした部分に言及している業者にはまだお目にかかっていません。